私のパスポートは無効だった。実家のリフォームの混乱で、有効なパスポートと無効なパスポートが入れ替わってしまっていたのだ。しかも、有効なパスポートは捨てられてしまっていた!このままでは、弟の結婚式に参加できない。
自分「どうしてくれるの? お金で償ってよ!」。強い口調で迫る私に、父は言い放った。
父「来なければいいんだよ!」
自分「???」。実の父からそんな言葉が出てくるなんて…。売り言葉に買い言葉とはいえ、私は一瞬耳を疑った。
自分「どういうこと?」
父「こんな奴、来なきゃいいんだよ。もうそれでいいじゃないか」
母「そんなこと言っていない、そんなこと言っていない」と割って入った。
家族の結婚式で、父が娘に来なくていいという。そんな台詞が出たら、もうお終いである。家族は崩壊である。母は必死で、父が私に言い放った言葉をなかったことにしようとした。父をかばい、暴言をひたすら、なかったことにしようとした。
自分「今、来なくていいって私に言ったよ」
母「そんなこと言っていない!」
父「いや、もう来なきゃいいんだよ」
これが三回くらい繰り返された。空港は一転、修羅場になった。
私は絶縁を覚悟した。この家族はもう終わりだなと思った。ああ……ようやく、毒親との闘いに終止符が打たれるんだ。私は解放される。もうお別れだな……そんなことをふっと思った瞬間である。
突然、テレパシーのように言葉が降ってきた。
「本当は一緒に行きたかったよ……」
え、これは一体??……
そう、降ってきた言葉は、父の言葉だった。
「来なきゃいい」と反対の言葉でしか自分を表現できない父。でも、本当は娘の私と結婚式に行きたかったのだ。以前から家族全員で海外に行くことを楽しみにしていたのだ。それが自分たちのミスで適わなかったから、こんな言葉を吐いてしまったのだ。
父は、まるで反抗期の中学生のようだ。いつも、いつも暴言ばかり、人を貶める言葉ばかり。私は幼いころから、暴言を言葉のシャワーのように浴びてきた。いや、それ以上に無視されることも多かった。でも、それは、父が愛情表現の方法を知らなかったからなのだ。
父も両親から適切な愛情を受けられなかった。小さいころから、父も家族の中でいじめられてきたようだった。でも、父は自分がいじめられてきたことを認めようとはしない。自分だって可愛がられていたと信じて疑わなかった。だからだろうか、父はマイナスとプラスの言葉の区別がつかないのだった。
父の暴言の裏には愛情があった。私は空港で、それが唐突に、腑に落ちた。
「この人は、こういう愛情表現しかできない人なのだ」
一種の諦観のような思いでもあった。
人を受け止める、許す、とはこういうことなのだろうか。穏やかで、波風のたたない湖のような心境だった。
私は弟の挙式には行けなかった。それは大変残念で、悔しいことだ。けれども、私は父を少しだけ理解することができた。長年の確執を乗り越えて理解するのには、きっとこれだけの代償が必要だったのだろう。
私は空港を去り、帰路に就いた。泣いていた母に「お父さんを責めないで、楽しんできて」とメールを打った。母はきっと、罪悪感にさいなまれて、一ミリも海外を楽しめないだろうから。
そして、父にメールを打った「みんなで、またどこかに行こう♪」
父からメールが返ってきた。「行こうね」。母からもメールが来た。「ごめんね。本当にあなたを産んでよかった」。帰り道、涙があふれた。いつもいつも欲しかった優しい言葉が、やっと両親からもらえたのだ。
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毒親育ちが、ロックマンしか愛せず音信不通に苦しむ日々を卒業し、誠実な癒し系の旦那様と結婚。コロナ禍で出産し、産後クライシスに荒ぶりながらも「天職と愛する人と豊かに生きる」日々を発信中。根本裕幸氏のお弟子さん1期。
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